コラム

研究の合間に考えたことなど

  • アラフォー・アラサーの手取りは部長・社長世代が昔得ていた額より少ないのか?(手取り収入の世代間格差)
  • 『アラサーエアコン』に見る宣伝・マーケティング、おまけで商標

[R: bibliometrix]著者所属国・地域の修正

Rのパッケージのbibliometrixでは自動で著者所属国が取り出されるが、このとき、論文で所属国(住所の最後の部分)となっている情報を取り出すコマンドであるmetaTagExtractionコマンドにおいて、以下の場合には特別な処理がなされている。

  • UNITED STATES→USA
  • TAIWAN→CHINA
  • ENGLAND/SCOTLAND/WALES/NORTH IRELAND→UNITED KINGDOM

この修正処理を解除したい場合(例えば、イギリスの地域的な差を見たい場合)には、ソースコードを手に入れ、ここの箇所を修正し、コンパイルすればよい。

以下に手順を整理しよう。

 

1.ファイルの修正

 

修正するファイルはR/metaTagExtraction.R

  M$AU1_CO=gsub("ENGLAND","UNITED KINGDOM",M$AU1_CO)

などとなっている箇所を手作業で修正する。例えば、

  M$AU1_CO=gsub("ENGLAND","ENGLAND",M$AU1_CO)

のように。

 

2.パッケージのコンパイル

 

Mac、Linuxではターミナルを起動し、cdコマンドでこの編集したパッケージのソースコードが入っている上位のフォルダに移動する。

その上で以下のコマンドを入力する(例ではソースコードはbibiliometrix-revというフォルダに入っている)。

 R CMD build bibliometrix-rev

その上で、 building ‘bibliometrix_3.1.5.tar.gz’と表示されるので、そこに表示されたtar.gzのファイル名をコピーし、以下のようなコマンドを入力する。

R CMD INSTALL bibliometrix_3.1.5.tar.gz

 

これで完了。ただ、パッケージがアップデートされるたびにもどってしまう。bibliometrix-revのような別パッケージにできればいいが、とりあえず保留。

[特許データ分析]PATSTAT使い方覚書(1)出願人名からの検索

欧州特許庁が提供する研究用特許データベース「PATSTAT」は非常に有益なデータ源だが、日本語での解説は乏しいことが欠点です。ここでは、私の備忘も兼ねて、いくつか基本的なコード集を共有します。なお、MySQL ver.8.0での実装を想定しています。スマートなやり方ではない箇所がありますが、これは私の技能の問題です。

 

前提

patstatをMySQLのschemaに格納できていることが前提です。格納には私は以下のサイトのコードをつかいました。

http://rawpatentdata.blogspot.com/2019/11/patstat-2019b-mysql-upload-scripts.html

なお、以下の例ではschema名は"patstat"としています。

 

 

出願人名からの検索

発明者名・出願人名はt206というテーブルに収録されています。PATSTATでは何種類かの名寄せが行われていますが、ここではPATSTATの名寄せデータ(PSN_NAME)を使うことにしましょう。手順は以下のとおりです。

 

ステップ1:出願人名のIDを取り出します

  • まず対象企業のものと思われる名称を検索します。
  • 一覧をダウンロードし、目視で対象となる企業のID(PERSON_ID)を特定します。ついでに住所(PERSON_ADDRESS, PERSON_CTRY_CODE)もとっておきましょう。
  • 注意:MySQLのデータフォルダに"out_applicant_id.csv"というファイルが存在しているとエラーになります。削除しておいてください。

コード(例ではNokiaまたはEricssonを検索)

use patstat; 

 

SELECT person_id, psn_name, person_address, person_ctry_code from tls206_person as t206

where (t206.psn_name like 'Nokia%') or (t206.psn_name like 'Ericsson%') 
into outfile "out_applicant_id.csv";

 

ステップ2:抽出対象の出願人IDを新しいテーブルに格納します

  • "out_applicant_id.csv"というファイルが出力されましたので、Excel等で開き、2列目(psn_name)と3列目(person_address)を見て対象となる出願人の person_idを"in_applicant_id.txt"というタブ区切りテキストファイルに保存しましょう。
    • 会社名等にカンマがはいることもあるため、csvファイルはおすすめしません。
  • このとき、同じ出願人についても複数のperson_idがある場合があると思います。このような時の場合のため、「company_group」という列を作り、ここに出願人のグループ名を入力しておきましょう。
person_id company_group
1037159 Nokia
1228600 Nokia
  • その上で、この"in_applicant_id.txt"を「in_appln_names」というテーブルに仮格納し、そこからこのテーブルと、欲しい情報のテーブルをマージ(結合)させます。

コード

use patstat;

 

drop table in_appln_names; 

 

create table in_appln_names

person_id int not null primary key,

company_group varchar(255));

 

load data infile "in_applicant_id.txt" into table in_appln_names
FIELDS TERMINATED BY '\t' LINES TERMINATED BY '\r\n'
IGNORE 1 LINES;

 

ステップ3:出願人情報から出願番号、公開番号、登録番号、INPADOC Family IDを取り出します。

  • 出願人のperson_idを検索条件にして出願番号、公開番号、登録番号、INPADOC Family ID等を取り出します。
  • 出願庁、出願年を検索条件にしています。

コード

select

   tls201_appln.appln_id, tls201_appln.appln_auth, tls201_appln.appln_nr,

   tls201_appln.appln_filing_date, tls201_appln.earliest_filing_date,       

tls201_appln.inpadoc_family_id, 

   tls211_pat_publn.pat_publn_id, tls211_pat_publn.publn_nr, 

   tls227_pers_publn.person_id, tls206_person.psn_name, in_appln_names.comp_group 

 from in_appln_names

 inner join tls227_pers_publn on in_appln_names.person_id = tls227_pers_publn.person_id 

 inner join tls211_pat_publn on tls227_pers_publn.pat_publn_id = tls211_pat_publn.pat_publn_id  

 inner join tls201_appln on tls211_pat_publn.appln_id = tls201_appln.appln_id

 inner join tls206_person on in_appln_names.person_id = tls206_person.person_id

  AND (tls201_appln.appln_auth = "EP" OR tls201_appln.appln_auth = "US") 

  AND ((tls201_appln.earliest_filing_year > 1985 AND tls201_appln.earliest_filing_year < 2016) 

   OR (tls201_appln.appln_filing_year > 1985 AND tls201_appln.appln_filing_year < 2016))

 into outfile "out_patentlist.txt";

  


アラフォー・アラサーの手取りは部長・社長世代が昔得ていた額より少ないのか?(手取り収入の世代間格差)

2013/5/23

若者の可処分所得が減ってきているのに、政治・経済のマジョリティであるオジサンたち(50代、60代)はそのことに気がついていない!というブログ記事(http://d.hatena.ne.jp/yuhka-uno/20130519/1368967495)がありました。

 

本当にそうなのでしょうか。誰しも自分自身に経験に当てはめて考えがちなので、オジサン世代が若い頃に可処分所得が今よりも多かったのなら、そのとおりである可能性はあります。仮にそうだとすると、50代・60代の部長・社長が決済した20代・30代向け商品がピントをはずしている理由の一つであるかもしれません。

 

では、実際、可処分所得の差はどれくらいだったのでしょうか。給与の差が登場しだす30代に注目すると、世帯収入が10年前に比べて100万円下がった、ということが2009年に三菱総合研究所とNHKによって調べられています(http://www.mri.co.jp/NEWS/column/thinking/2009/2009015_1801.html)。しかしこの調査では、企業の意思決定のマジョリティである部長世代・社長世代(50代、60代)と実際いくらの差があるのかは明らかになっていません。その理由は、平均的な世帯年収に関する長期的な統計がないためでしょう。

 

しかし、データとして制約はあるものの、サラリーマンの給与の推移については長期データがありました。そこで、財務省の統計を使って、手取りを簡単に試算してみました。もちろん円の価値は現在(平成23年)の価値に換算しています。計算を楽にするために、以下の3つのみを推計し手取り額を導いています。

・サラリーマンの給与

・税(所得税・住民税)→いずれも当時のもの

・厚生年金→いずれも当時のもの

 

課題としては、次の5つがあることにご注意下さい。

・男性のみにしか着目していない(これは男性中心であった部長・社長世代と比較のためです)

・現在ある程度の割合存在する非正規雇用の方を考慮できていない

・平均に着目しており近年世界的に指摘されている収入格差の拡大については考慮できていない

・健康保険料を考慮できていない(これは市町村、企業により異なるためです)

・アラフォー(現37歳〜41歳)については、専業主婦と子供2人という、一昔前では当たり前でいまではもしかしたら珍しい前提で税額を計算

 

結果はこうなりました。

図 各世代が25歳-29歳だったときの年収(年間の手取り収入比較)
図 各世代が25歳-29歳だったときの年収(年間の手取り収入比較)
図 各世代が35歳-39歳だったときの年収(年間の手取り収入比較)
図 各世代が35歳-39歳だったときの年収(年間の手取り収入比較)

まず、アラフォーは手取りが実質的に15%減っていました。ここには60歳代以上の人は当時払う必要の無かった携帯電話・インターネットとなどの通信系の固定費(ただし、固定電話と高い電話代があったので多少は相殺されるでしょう)が考慮されていません。実際はもう少し差は大きいと推測できます。

 

次に、アラサー(ロストジェネレーション)はアラフォーほどではないですが実質的に12%減っていました。ただし、社長世代(60代)と比べると実質的に多いことがわかります。お金の感覚は部長世代とはわかり合えないけれど、社長世代とはわかりあえる、ということが想像できます。

 

ここから考えると、50代・60代の方が少なくとも30代向け商品を考えるときには十分に注意しなければならないと言えるでしょう。アラサー世代は思った以上にお金を持っていません。ですので、「車を買ってくれないのは、そもそも免許をとっていないからだ。だから免許取得を促すCMをしよう。」とか「結婚して子供がいるアラサーにはこどものための空気清浄機能がついたエアコンが売れるだろう。」とかいうものは、ピント外れなのです。車を買ってくれないのはお金がないからである可能性が高く、アラサーで結婚していて子供がいるのは1/3くらいでしかありません。

 

では、このような手取りの減少はどこから来たのでしょうか。

 

一つは給与の低下です。

実質化の計算の際に、消費物価指数を見るとデフレと言われる割には下がっていない、インフレと言われていたわりにはあがっていない、ということが気になりました(これは消費物価指数の方が妥当な物でない可能性も示唆しますが、ここでは消費物価指数が正しいとします)。給与を物価の変動に対して過敏に変動させてしまった可能性があります。

 

もう一つは社会保障費用(年金)の増加です。

私の試算が間違っていなければ、30年間に比べ実質的にほぼ倍になっています。

 

高齢化社会の怖さは、社会保障費用の増加による可処分所得を減少と、意思決定が高齢化することによる市場とのギャップ(とくに若年層の可処分所得が増加しつつある新興国の市場とのギャップ)の発生にあるように思います。

 

なお本試算ではサラリーマンの実質給与として働いていた福利厚生、隠し手当?(経費がある程度自由に使えた)などは含まれていません。アラフィフ世代の方からはこれを考慮すると実質的にはもっと差が大きいのではないかという指摘をいただいています。


『アラサーエアコン』に見る宣伝・マーケティング、おまけで商標

2013/3/13(2014/2/23加筆修正)

テレビコマーシャルや通勤電車内のデジタルサイネージで流される、パナソニックのエアコンの宣伝に対して、「斜め上」だ(どこかおかしい、現実にあっていない)という批判が出ているのを見かけました。

 

批判や違和感の要点としては、

・絵の中に比較的大きい子供がいる(6歳〜10歳程度に見える)が、現在のアラサー(27歳〜33歳)の家庭では考えにくい。

・そもそもアラサー世代で核家族に子供というのが標準的な世帯像ではない。

・前提としている世帯像が「昭和」の常識を引きずっている。

というところであると思います(注1)。

 

これについてはアラサー世代の筆者も、この批判・違和感に共感できます。ただ、一歩立ち止まって定量的に違和感を確認してみましょう。実際に数字で見るとこの違和感はどのように説明できるのでしょうか。

 

■宣伝に出てくる、子供ありのアラサー世帯ってどれくらいあるのか?

まず、分析の前提として、家庭用エアコンの購買の主導的意思決定を担うのはおそらく女性だ、ということにして(注2)、この宣伝でのアラサーは女性(お母さん)を指している、ということとしましょう。

また、宣伝の絵面では子供の年齢が6歳〜10歳程度に見えるのですが、現代の状況に合わせて、6歳未満の子供がいる世帯のみを前提とします。

 

ここで、国勢調査、人口統計(いずれも平成22年(2010年)の値)を用いて、アラサー世代の女性の数、うち配偶者を有する女性の数、さらにそのうち6歳未満の子供を有する女性の数を計算してみました。

 

その結果、6歳未満の子供を有する女性の数は169万人(世帯)、アラサー世代女性の31.2%に留まることがわかりました(図参照)。

「アラサー」の残り68.8%は対象外(注3)というのであれば、反発を覚えられても仕方ありません。

 

→結論1:宣伝の手法として「アラサー全体を対象としている」かのような印象を一部(又は大部分)の受取手に与えてしまったのは失敗。

■アラサーエアコンは市場を見ていない製品なのか?

宣伝の手法の課題はともかく、ニッチ市場向けの製品として当初から想定されていた可能性は少なくありません。仮にニッチ市場向けであれば、宣伝から昭和の香りがしようと、当該需要層に届けば良いのであるから問題はないはずです。

 

まず、この製品はニッチ市場向けなのでしょうか?

 

前述の推計をそのまま用いて、エアコンの耐用年数(買い替えの平均年数)が7年と仮定して、アラサー子供あり世帯でのエアコンの買い替え需要をラフに推計しました。その結果、24万台程度であることがわかりました(図1参照)。(もちろん、実際の宣伝文句は「アラサー」であっても「アラフォー」だって買うかもしれません。ただ、「アラサー」とつけてしまったことにこの分析は粘着(笑)しています。)

 

ルームエアコンの2010年〜2012年の平均出荷台数は836万台(注4)ですので、24万台の需要は全体の2.8%ということになります(注5)。そうだとすると、どちらかといえばニッチ市場向けの製品であったと見た方が良さそうです。

 

ニッチ市場向け製品は、製品あたりの付加価値額が高いことが多いというのがおそらく一般的です。そこで、この「アラサーエアコン」(パナソニックエアコン Tシリーズ)について見てみると、価格は15万円〜20万円となっています(定価はオープン価格ですが、40万円程度と表示している小売がありました(2013年3月段階))。『小売物価統計調査』によると2011年の平均小売価格は17〜18万円前後であるため、「アラサーエアコン」が特別に高い製品とはいえません。特別に安くできる製品とも思えないため、付加価値額は特別に高くないと推測せざるをえません(注6)。

 

そうすると、せっかくニッチ市場を狙ったのに付加価値を効果的に挙げられていない(マイケル・ポーターの競争戦略のフレームワークに載せれば、差別化戦略を採ったのに、付加価値面で十分なうまみを得られていない)ということになってしまうように思います。

 

→結論2:ニッチ市場向け製品と考えられるが、やや高めの製品として発売できていないようである点はもったいない。

 

■違和感の本質

上記をあわせると、「アラサーエアコン」の宣伝から感じる違和感は以下の2点に集約できます。

・宣伝とマーケティングの不整合

・競争戦略としての不整合(こちらはそれほどでもないかもしれません)

 

いずれも違和感の発端は「アラサー」を宣伝につけてしまったことにあるように思います。この「アラサー」の宣伝文句の本気度の一端を知るために、商標登録されているかを確認してました。そうすると、「アラサーエアコン」での登録例は2013年3月13日段階では存在しなかったのですが、その後、その翌日3月14日に出願され、登録されている(日本商標第5627050号)ことが分かりました。

 

当時書いた段階では「いわゆるWeak Markであるので拒絶されている可能性も少なくはないが、パナソニックとしては、とりあえずのところ「アラサー」を本気でマーケットとしようとしているわけではなさそうだ、と推測できる。」と書いたのですが、どうもそれなりに本気だったようです。

 

(注1)諌山裕「<a href="http://blogos.com/article/57431/">パナソニックが妄想する顧客像「アラサーエアコン」</a>」BLOGOS2013年03月05日記事。

(注2)これはF1層(20歳〜34歳の女性)がどのような消費材に対しても積極的に購買を行う傾向があるので、エアコンに対しても購買の中心となるだろうという推測が根拠です。決して、アラサー世代で専業主婦が一般的で、家の中のことは全て女性が担っているという「昭和」のイメージを前提にしていません(筆者個人の周りでは既婚の同世代で専業主婦は少数派です。専業主婦であっても子育ての支援が得られなかったためにやむを得ず、という方が少なくないようです(もちろん、子育てに全力投球することを目的として専業主婦をされている方も知っています)。また、専業主婦/主夫で暮らしていけるような所得を片方が稼いでいるという例は極めて少ないように感じます。)。

(注3)この中には、6歳以上の子供が居る女性も含まれているので、もう少し低く見た方が良いとは思いますが…。

(注4)一般社団法人日本冷凍空調工業会の統計に基づいています。

(注5)筆者がここで行ったチャチな推計よりずっとマシな推計を行っているはずなのでもう少し上方の推計値だったのかもしれません。

(注6)大手家電量販店で見る限りではやや高めでありますし、また、メーカーからの卸売価格では十分に高い可能性もあります。